2018年8月23日木曜日

うつせみ

東鳴子温泉のとある場所で見つけた脱け殻。
逝く夏を告げているのか、いや、夏が置き去りにしていったのか。


そして僕は「うつせみ」という言葉を説明するのに、半日近くかかったことがあるのを思い出した。
今から20年以上前のこと。サンフランシスコ近郊にある録音スタジオで『Secret Plan』というアルバムに収める為の曲を録音しようとしていた。そのうちの1曲が『うつせみ』。

プロデューサーのスコット・マシューズ氏は、取り組む楽曲のイメージをとことん追求するタイプの男であった。うつせみの歌詞の意味を問われた私は、拙い英語で悪戦苦闘。
しかし、その録音に参加していたミュージシャンもエンジニアも日本語を理解するものは皆無。でも紙とエンピツも使って一生懸命説明した。止せばいいのに源氏物語やコクーンの話にまで発展して、事態は複雑になるばかりであった。

はたしてわかって貰えたのかどうか未だ謎であるが、録音テープも回さずに、彼らは僕と半日近く空蟬についての会話を楽しんでいたことは間違いない。幼いころからの僕の蝉に対する向き合い方はどうやら彼らにとって奇異に映っていたらしい。

なぜなら、スタジオに居合わせたメンバーでホンモノの蝉を見たことがあるのは僕一人であったから。




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