2014年9月25日木曜日

シェイクスピア世界への入り口~ウエストエンドの断片(4)

私が初めてシェイクスピア作品に触れたのは、大学生の時であります。
最初に読んだのは「ロミオとジュリエット」だったと記憶しています。
名作ロミオとジュリエットは、シェイクスピア先生がギリシア神話の『ピュラモスとティスベ』を元にして書かれたイタリアの小説からヒントを得て書いたといわれていますが、20世紀になってこれをもとに「ウエストサイド・ストーリー」という映画やミュージカルが製作されていたのですね。
不勉強な学生だった私は、そんなことなど全く知らなかったわけでありまして、さらに数十年後に、自分の仕事としてミュージカルの世界に足を踏み入れることも、シェイクスピア作品に再び触れることになることなども、まったく知る由もなく…。


正直なところ当時の私は、現代日本文学や音楽のほうに興味が集中していたし、恋愛ものとしては、たとえば映画にもなって山口百恵や三浦友和が吹き替えしていたエリックシーガルの「ある愛の詩」などのほうがしっくりくるように感じていたのであります。
ゆえに、残念ながら大学時代には、英文学科の学生だったにも関わらず、シェイクスピア作品に心惹かれることはなく、ただ書かれている英文が難しいという印象だけをもっていたのでした。


ところが、当時難しいと思いながらも、なぜかシェイクスピアのソネット(14行詩)だけには興味がわいて、それがきっかけで、結果的に英文の詩に興味を持ち、専攻を「イギリスロマン派詩」にすることにしたのです。考えてみればシェイクスピアに全く触れていなければ、専攻をアメリカ文学にしていたかもしれない。今でも何か不思議な気がします。


それから20年後(そういえばO.Henryの作品に"After Twenty Years"ってのがありましたね、あ、これはアメリカ文学)、今から12年前に(友人というより兄貴のような)下館和巳さんがロンドンのグローブ座で演出するということで、初めてイギリスを訪れることになりました。つまり、20歳前後にシェイクスピアの世界を「ちら見」して以来、人生二度目のシェイクスピア体験をすることになるのです。


世界中から集まった俳優たちを相手に、和巳さんがアジア人としては初めてあの復元された劇場で演出する。私は単純に「そりゃ、応援に行かなくちゃ」ってことで、その現場に駆け付けました。2002年の夏の終わりのことでした。これがその時ロンドンのグローブ座の壁に貼られていた公演ポスター。
よく見るとポスター左端の真ん中に和巳さんの顔が。




ちなみに当時のグローブ座の外観はこんな感じです。




そして、2014年、あれから12年後の今年訪れたグローブ座の外観。




比較すると、なんとなく以前より活気に満ちているような…。

ストラトフォードで芝居は見ませんでしたけれど、買い物をしたの唯一のものが、シェイクスピアのソネット集。
生家の傍にある売店で衝動的に買ってしまったのですが、帰国後つくづく眺めてみると、何だか、何十年もかけて、ずいぶんと遠回りして、振り出しに戻ったような気分になりました(笑)
さて、話は戻って2002年9月。


いずれこのブログでまたご紹介するかもしれませんが、今回はシェイクスピアの生家、ストラトフォード・アポン・エイボンにも行ってきました。グローブ座は、ロンドンにあるということもあるのでしょうが、ストラトフォードとはまた違う温度が劇場周辺から感じ取れます。




グローブ座での本番前日、彼に近くのパブでインタビューしたのですが、その話しぶりからは、緊張感とともに、彼がまさに大きく高い壁を乗り越えようとしているような気迫を感じたものでした。

彼が演出した作品は、シェイクスピア作品からいくつかオムニバス形式で演技を構成していく内容のものでしたが、英語圏の方やシェイクスピア作品を(英語で)体験している方はともかく、私のように英語力もなく浅学の身には、少々敷居が高い内容でした。そこで彼は、日本から来たお客さまへの参考までにと、自筆で解説文を書き、当日それをコピーして配ってくださいました。

これは大変ありがたく、アホな弟分にとっても勉強になったものです。それにしても、あれほど多忙を極める中で、彼が、作品に対するリスペクトとお客に対するホスピタリティの両方を重視する姿は、いかにシェイクスピアを大切にしているのかが伝わってくるようで、印象的でした。きっと彼にとってはごく自然な振る舞いだったのかもしれませんが。

最後にこれは、その日私が撮影したものなのですが、今となっては貴重な一枚かもしれません。





舞台が終わった後に、グローブ座で撮影したもの。みんながカッパを着ているのは、公演時間にはあいにくの雨だったからです。グローブ座には一部の客席を除いて屋根がありません。桟敷席の客はみんなカッパを来て観劇したのです。

中央で帽子をかぶっている紳士はMark Ryance(マーク・ライアンス)氏。ロンドングローブ座最初のアーティスティック・ディレクターであり、トニー賞やオリバー賞などを受賞している人気俳優。の左隣が和巳さん。手前のこども2人は和巳さんの長女と次女。このときまだ三女は誕生してませんでした。
そして右端は和巳さんの奥様であり写真家の故中村ハルコ氏。

プライベートな写真でもありますから、公表するのは多少憚ったのですが、あれから干支もひとめぐりしてシェイクスピア生誕450年に訪れた英国。僕は人生三度目のシェイクスピア体験をして、再びその世界の入り口に立ったような気分です。でも今度は何だかそれが続きそうな、入り口からもう一歩入り込めそうな予感がしています…。

ハルコさんにもそんな報告がしたかったし、和巳さんや僕たちの夏の体験、ウエストエンドの断片を記録することで、彼女も天国からこのブログ見て、楽しんでくださるような気がしてね。


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